「生物はウイルスが進化させた」を読んで
再びの巨大ウイルス
皆さんこんにちは。
今回も備忘録です。第二弾になります。読んだ本は
です。
お気づきの方もいるとは思いますが、前回の備忘録第一弾である「巨大ウイルスと第4のドメイン」と同じ、武村政春氏著、ブルーバックスより出版された本です。
そちらの記事を読んでいない方は是非とも一読してから今回の記事を読んでいただけるとしっくりくると思います。
maipe-suhakusikateinoaadakouda.hatenablog.com
さて、今回の本のテーマも巨大ウイルスです。何を隠そう、私は巨大ウイルスにお熱です。本来小さいはずであるウイルスが巨大である、そしてそれによって、今までの生命感が覆るかもしれない、そんなところにロマンを感じざるをえません。なので、今回はこの本を選んでしまいました。
著者である武村政春氏は冒頭で述べておりましたが、この本は前作「巨大ウイルスと第4のドメイン」の焼き直しとも、続きとも位置付けていないそうです。詳しくは読んでもらえればわかるのですが、今作では前回より詳しい内容に踏み込んでいたり、著者が提唱する、生命に対する巨大ウイルスの位置づけをわかりやすく述べられています。
その中から、私が感銘を受けた点、なるほど!と思った点をいくつか紹介したいと思います。
特殊である巨大ウイルスはどこにいる?
さて、前回のブログでミミウイルスという巨大ウイルスの規格外の大きさについて少し紹介しました。前回では触れていませんでしたが、ミミウイルスはイングランドのブラッドフォードにある病院の冷却塔の水に住むアカントアメーバから見つかりました。では、このウイルスならざる巨大なウイルスはイングランド固有のウイルスなのでしょうか?実は巨大ウイルスは割と世界各地で発見されており、発見された場所がそのままウイルスの名前につく場合もあるようです。そして、日本でも巨大ウイルスは見つかっているのです。この本の著者である武村政春氏が日本の川から分離に成功しており、トーキョーウイルスと名づけられたのです。
日本で巨大ウイルスが見つかることはとても驚きです。ましてや、「川」といった我々に馴染みのある場所から見つかったことは親近感を覚えます。
武村政春氏も本の中で言及していましたが、目に見えることが世の中全てではないのかもしれません。科学技術の発展した現代においてもこのようなウイルスが見つかったのは比較的最近です。というよりも、その物体自体は見つかっていたが、それが巨大「ウイルス」であるとわからなかったという過去があるのです。つまり見えているものでも、見えていないという事が生じうるのです。我々の周りにはこういった、見えているけど見えていないものがまだまだ存在するのかと思うと、ちょっぴり怖いが、ワクワクしてしまいますね。
あなたの真の姿はどれ?
皆さんはウイルスの本体といったら、どんな形状を想像しますか?
ニュースで見る写真では、球状のもやもやした物体、イラストでは金平糖のようなイガイガの形を頭に浮かべるのではないのでしょうか。いわゆるウイルスの粒子というやつです。植物ウイルスを研究している私でも、そのような形をまず最初に想像します。
しかし、巨大ウイルスの研究が進むにつれて、ウイルスの本体は粒子ではない、といった説が浮上してきたのです。
一般的に、ウイルスは何かに感染して増殖する過程で、ウイルス粒子が見えなくなる時期があります。これを暗黒期といいます。ウイルスはその粒子の中にDNAもしくはRNA(DNAと似たようなものなので以後DNAとだけ表記)というものを格納しており、感染に伴ってこのDNAを感染細胞内にぶちまけます。そうすると容器である粒子は必要ないので分解されます。よって、暗黒期が訪れるのです。そして、DNAおよび粒子を感染細胞のシステムを使って増殖させ、再び、粒子の中にDNAを格納するのです。
なぜ自分で増殖しないのかは以前の記事でも簡単に書いているのでそちらを見ていただければと思います。
maipe-suhakusikateinoaadakouda.hatenablog.com
では、巨大ウイルスの増殖はどうなっているのでしょう。
こんなもったいぶった言い方をしているので、もちろん一般的なウイルスと増殖様式は異なります。
巨大ウイルスは標的である生物に感染すると、粒子の内部にあるDNAをぶちまけます。ここまでは一般的なウイルスと同じですね。そして、しばらくすると感染した細胞内にとある物体を作り上げるのです。
それは細胞内で明らかに膜で区切られた物体であり、この物体は細胞内でDNAを格納している核と見紛う大きさです。この膜で隔てられた物体はウイルス工場といわれています。なぜ、ウイルス工場といわれているのかというと、この物体の周りから次々と新しい巨大ウイルスの粒子が現れるからです。
詳細は割愛しますが、簡潔にまとめると、このウイルス工場の中で巨大ウイルスのDNAがじゃんじゃん作られており、新たに作られたDNAおよびその粒子が工場の膜を身にまとって出てくるのです。ちなみに、このウイルス工場が出来てしまった細胞ではその細胞は巨大ウイルスの粒子を作ることに一生懸命になってしまいます。
先ほどもいいましたが、ウイルス工場は膜で区切られた核と見紛う大きさの物体であり、中では巨大ウイルスのDNAがどんどん作られています。これは何かに似ていると思いませんか?それは「核」です。核は、細胞内に存在し、膜で区切られた細胞小器官であり、中では生物のDNAが格納および作られています。
そうです、ウイルス工場も細胞内に作られ、膜で区切られており、中では生物のとはいいませんが巨大ウイルスのDNAが作られているのです。
そして、この性質を基に、このウイルス工場がウイルスの本体であるというのが新しい説なのです。もっと言うと、このウイルス工場がつくられた細胞そのものがウイルス本体ではないのかという大胆な説なのです。この、ウイルス工場がつくられた細胞はヴァイロセルといわれ、ウイルス粒子を次々と作っています。そして作られたウイルス粒子がまた新たな細胞へと侵入し、そこでもウイルス工場を建設し再び増殖していきます。
これに似たプロセスを我々生物も行っています。
生物では普段は新陳代謝によって常に新しい細胞が作られていますが、その際に細胞の核の中でDNAが複製され、新しい細胞へと分配されていきます。そして、子孫を残すときには精子や卵など生殖細胞といわれる特殊な細胞を作ります。つまり、一個体として成長していくうえでは細胞分裂を行っていますが、子孫を残す際は特殊な形態を作るのです。
生物と巨大ウイルスを比べると、
生物では
- 細胞
- 核
- 生殖細胞
巨大ウイルスでは
- ヴァイロセル
- ウイルス工場
- ウイルス粒子
それぞれの番号の器官が対応しているのです。
つまり、巨大ウイルスの本体を何に定義するかによっては、巨大ウイルスも生物のような挙動をとるように見えるのです。
(なお、巨大ウイルス全てがウイルス工場を作るわけではないので悪しからず。)
おわりに
巨大ウイルス、この特異な存在は我々に生命の在り方を示してくれているのでしょうか。その可能性は十分あるように感じます。見えているけど見えていない、巨大ウイルス発見がそうであったように、今わかっていることの中には実はまだわかっていないことがあるのかもしれません。
現時点でわかっている事象について、別の観点から見てみるとさらに明らかになることあるかもしれません。少なくともこの教訓を巨大ウイルスは我々に気づかせてくれたのかもしれません。
それではまた。