マイペース博士課程のああだこうだ

マイペースな博士課程が主に科学トピックについてああだこうだとつぶやきます。

ウイルスの名前とキラキラネーム

ウイルスの名前の法則性

皆さんこんにちは。

日に日に暖かい日が増えてきて、私が通っている大学でも桜の花がちらほらと咲き始めました。数日も経てば桜も見ごろを迎えるのでしょうが、現段階の天気予報を見ると数日後からしばらく雨が続くようなので、少し残念です。

 

さて、先日の記事でサボテンにバイラス病をもたらすサボテンX(エックス)ウイルスについて簡単に触れましたが、

 

maipe-suhakusikateinoaadakouda.hatenablog.com

 サボテンXウイルスという名前は面白いと思いませんか?

サボテンに感染するウイルスなので、サボテンウイルスというのは納得できますが、Xはどういう意味なのでしょうか?

またまた、「植物ウイルス大事典(朝倉書店)」を参照してみると、

番号、文字、あるいはそれらの組み合わせは、それらが既に広く使われている場合には種名の形容詞句として使用してよい。しかし、連続的な番号、文字、あるいはそれらの組合せは、新提案の種名の形容詞句として認めない。番号や文字が既にある場合には、継続した番号や文字を使用してもよい。

だそうです。

つまり、サボテンXウイルスのXは種名の形容詞句として用いられてる文字ということになります。そして、このウイルスが初めて報告されたのは1960年前後(引用をさかのぼったのですが、古すぎたり文献がドイツ語であったりと詳しくはわかりませんでした)であり、今のウイルス命名の体系が作られる前であったため、新提案の種名の形容詞句にXがつけられたと思われます。

 

ちなみに、ウイルスの名前にXのようにアルファベットがつくウイルスはほかにもあり、有名どころだと、ジャガイモXウイルス、ジャガイモYウイルス、ジャガイモAウイルス、ジャガイモMウイルス、ジャガイモSウイルスなどのジャガイモウイルスシリーズ、ブドウAウイルス、ブドウBウイルス、ブドウEウイルスなどのブドウウイルスシリーズがあります。

AとかBはアルファベットの最初の文字なので、ウイルス名にあてはめていくのは何となく腑に落ちますが、XやYはなんでしょう。

おそらく数学でわからない数字のことをXやYとおくことからきているのではないでしょうか?ともあれ、Xとつくと急にかっこよく聞こえますね。

 

このようにアルファベットがつくウイルスもありますが、例外的な命名であり、ほとんどの植物ウイルスはもっとわかりやすい名前です。

例えば、世界で初めて発見されたウイルスは意外にも動物ウイルスではなく植物ウイルスであり、その名前をタバコモザイクウイルスといいます。

名前から連想されるようにタバコモザイクウイルスは、タバコにモザイク病を引き起こすウイルスです。

つまり、植物ウイルスの名前は

  1. 最初に病気として分離した植物
  2. そこで引き起こされていた病気名
  3. ウイルス

この三つを組み合わせたものがウイルス名になることが多いです。こういう命名法であれば、名前を聞くだけでどんなウイルスか想像しやすいですね。

 

おわりに

今回は植物ウイルスの名前に迫ってみました。

近年、キラキラネームといわれる、読む際にクエスチョンマークが浮かぶ当て字のような名前が多くなっているようですが、私個人は読みやすい名前の方がいいかなあと思ってしまいます。それは植物ウイルスの名前も一緒であり、名前を見ただけでどんなウイルスかわかるウイルス名がありがたいです。

いずれかの未来に、植物ウイルスにもキラキラネームの余波が来ないことを祈って。

 

それではまた。

 

サボテンとウイルスと

身近な多肉植物に忍び寄るウイルス

皆さんこんにちは。

今回は何か本を読んだ、というわけではなく軽い雑談です。

私は多肉植物を育てているのですが、そろそろ春ということで植え替えを行いました。

ちなみに我が家にある多肉植物は、実生のサボテンが少々、ハオルチアオブツーサ、セダム(月の王子)です。日当たりの関係や、写真技術がなさすぎるので写真を載せるのはやめておきます。興味がある方は調べてもらえるとわかりますが、いかにもオーソドックスな形の多肉植物です。

 

多肉植物は観葉植物の一種で、その名の通り葉を観て楽しむ植物です。

植物の見た目の美しさ、可愛さの価値観は人それぞれだとは思いますが、元気がある、傷一つない、葉の色にムラがない、といったところが一般的な判断基準になるのではないでしょうか。

多肉植物を初めて買ったとき、可愛いが故に水を頻繁にあげ過ぎて根腐れを起こしてしおれてしまったり、ぐんぐん成長してほしいが故に強い日光の下で育てて葉焼けを起こしてしまったり、そういう経験がある方も多いのではないでしょうか。

多肉植物は他の植物に比べると、比較的世話が要らない植物ということで、生活に取り入れやすい植物です。世話が要らないすなわち、あまり気に留める機会も減ってしまうという矛盾も生じやすいですが...

 

ところで、多肉植物もウイルスにかかることがあります。

多肉植物 ウイルス」で検索すると案外多くの記事が出てきます。なかでもサボテンに関する記述が多いように感じます。どうやら、多肉植物愛好家界隈ではウイルスによる病気のことをバイラス病といっているみたいです。

ウイルスは英語で ”virus” であり、これを英語的に発音すると、ヴァイラスなので、バイラス病と呼ぶようになったのでしょう。つまりウイルス病まんまです。

 

私が所属している研究室に、「植物ウイルス大事典(朝倉書店)」という分厚い事典があるのですが、調べものついでにぼーっと見ていた際にサボテンX(エックス)ウイルスという項目があったのを覚えています。

サボテン界隈で言われているバイラス病の原因は主にこのサボテンXウイルスだそうです。ではこのサボテンXウイルスは何者か、先の事典を基に簡単にプロフィールを。

サボテンXウイルス

  • アルファフレキシウイルス科ポテックスウイルス属のウイルス
  • 粒子の形状はひも状(径13 nm×長さ520 nm)
  • 感染すると病気が出ないこともあるが、植物体不均一に黄色になったりする(モザイク症状)
  • サボテン科の多くの植物に感染
  • 栄養繁殖、接ぎ木によって伝染
  • 割と世界各国に分布している可能性あり

このウイルスはその名の通り、サボテン類に感染するウイルスであり割と普遍的に存在しているウイルスみです。多肉植物しかり、サボテンは一部を切って、別のサボテンにくっつける(接ぎ木)、芽の部分をとり、ジャガイモ・サツマイモよろしくそこから新たな植物体が出てきたり(栄養繁殖)、一つの個体から新しい個体を繁殖させることが多いです。その際にハサミで切ったりするのですが、ウイルスに感染したサボテンをハサミで切って別の個体にくっつけたり、そのハサミで別のサボテンを切ることでウイルスが伝染していきます。なので、サボテンの管理をする際は気を付けた方がいいかもしれませんね。

 

おわりに

最近は暖かく感じる日も増えてきました。これからは植物たちの成長が目覚ましくなる季節です。多肉植物など観葉植物を生活に取り入れ、成長を楽しんでみてはいかがでしょうか。日々疲れることも多々とは思いますが、そんな時に植物を愛でることで心も安らぐかもしれません。

 

それではまた。

 

「生物はウイルスが進化させた」を読んで

再びの巨大ウイルス

皆さんこんにちは。

今回も備忘録です。第二弾になります。読んだ本は

「生物はウイルスが進化させた」武村政春著、ブルーバックス

です。

お気づきの方もいるとは思いますが、前回の備忘録第一弾である「巨大ウイルスと第4のドメイン」と同じ、武村政春氏著、ブルーバックスより出版された本です。

そちらの記事を読んでいない方は是非とも一読してから今回の記事を読んでいただけるとしっくりくると思います。

 

maipe-suhakusikateinoaadakouda.hatenablog.com

 

さて、今回の本のテーマも巨大ウイルスです。何を隠そう、私は巨大ウイルスにお熱です。本来小さいはずであるウイルスが巨大である、そしてそれによって、今までの生命感が覆るかもしれない、そんなところにロマンを感じざるをえません。なので、今回はこの本を選んでしまいました。

 

著者である武村政春氏は冒頭で述べておりましたが、この本は前作「巨大ウイルスと第4のドメイン」の焼き直しとも、続きとも位置付けていないそうです。詳しくは読んでもらえればわかるのですが、今作では前回より詳しい内容に踏み込んでいたり、著者が提唱する、生命に対する巨大ウイルスの位置づけをわかりやすく述べられています。

その中から、私が感銘を受けた点、なるほど!と思った点をいくつか紹介したいと思います。

 

特殊である巨大ウイルスはどこにいる?

さて、前回のブログでミミウイルスという巨大ウイルスの規格外の大きさについて少し紹介しました。前回では触れていませんでしたが、ミミウイルスはイングランドのブラッドフォードにある病院の冷却塔の水に住むアカントアメーバから見つかりました。では、このウイルスならざる巨大なウイルスはイングランド固有のウイルスなのでしょうか?実は巨大ウイルスは割と世界各地で発見されており、発見された場所がそのままウイルスの名前につく場合もあるようです。そして、日本でも巨大ウイルスは見つかっているのです。この本の著者である武村政春氏が日本の川から分離に成功しており、トーキョーウイルスと名づけられたのです。

日本で巨大ウイルスが見つかることはとても驚きです。ましてや、「川」といった我々に馴染みのある場所から見つかったことは親近感を覚えます。

 

武村政春氏も本の中で言及していましたが、目に見えることが世の中全てではないのかもしれません。科学技術の発展した現代においてもこのようなウイルスが見つかったのは比較的最近です。というよりも、その物体自体は見つかっていたが、それが巨大「ウイルス」であるとわからなかったという過去があるのです。つまり見えているものでも、見えていないという事が生じうるのです。我々の周りにはこういった、見えているけど見えていないものがまだまだ存在するのかと思うと、ちょっぴり怖いが、ワクワクしてしまいますね。

 

あなたの真の姿はどれ?

皆さんはウイルスの本体といったら、どんな形状を想像しますか?

ニュースで見る写真では、球状のもやもやした物体、イラストでは金平糖のようなイガイガの形を頭に浮かべるのではないのでしょうか。いわゆるウイルスの粒子というやつです。植物ウイルスを研究している私でも、そのような形をまず最初に想像します。

しかし、巨大ウイルスの研究が進むにつれて、ウイルスの本体は粒子ではない、といった説が浮上してきたのです。

 

一般的に、ウイルスは何かに感染して増殖する過程で、ウイルス粒子が見えなくなる時期があります。これを暗黒期といいます。ウイルスはその粒子の中にDNAもしくはRNA(DNAと似たようなものなので以後DNAとだけ表記)というものを格納しており、感染に伴ってこのDNAを感染細胞内にぶちまけます。そうすると容器である粒子は必要ないので分解されます。よって、暗黒期が訪れるのです。そして、DNAおよび粒子を感染細胞のシステムを使って増殖させ、再び、粒子の中にDNAを格納するのです。

なぜ自分で増殖しないのかは以前の記事でも簡単に書いているのでそちらを見ていただければと思います。

 

maipe-suhakusikateinoaadakouda.hatenablog.com

 では、巨大ウイルスの増殖はどうなっているのでしょう。

こんなもったいぶった言い方をしているので、もちろん一般的なウイルスと増殖様式は異なります。

 

巨大ウイルスは標的である生物に感染すると、粒子の内部にあるDNAをぶちまけます。ここまでは一般的なウイルスと同じですね。そして、しばらくすると感染した細胞内にとある物体を作り上げるのです。

それは細胞内で明らかに膜で区切られた物体であり、この物体は細胞内でDNAを格納している核と見紛う大きさです。この膜で隔てられた物体はウイルス工場といわれています。なぜ、ウイルス工場といわれているのかというと、この物体の周りから次々と新しい巨大ウイルスの粒子が現れるからです。

詳細は割愛しますが、簡潔にまとめると、このウイルス工場の中で巨大ウイルスのDNAがじゃんじゃん作られており、新たに作られたDNAおよびその粒子が工場の膜を身にまとって出てくるのです。ちなみに、このウイルス工場が出来てしまった細胞ではその細胞は巨大ウイルスの粒子を作ることに一生懸命になってしまいます。

先ほどもいいましたが、ウイルス工場は膜で区切られた核と見紛う大きさの物体であり、中では巨大ウイルスのDNAがどんどん作られています。これは何かに似ていると思いませんか?それは「核」です。核は、細胞内に存在し、膜で区切られた細胞小器官であり、中では生物のDNAが格納および作られています。

そうです、ウイルス工場も細胞内に作られ、膜で区切られており、中では生物のとはいいませんが巨大ウイルスのDNAが作られているのです。

そして、この性質を基に、このウイルス工場がウイルスの本体であるというのが新しい説なのです。もっと言うと、このウイルス工場がつくられた細胞そのものがウイルス本体ではないのかという大胆な説なのです。この、ウイルス工場がつくられた細胞はヴァイロセルといわれ、ウイルス粒子を次々と作っています。そして作られたウイルス粒子がまた新たな細胞へと侵入し、そこでもウイルス工場を建設し再び増殖していきます。

 

これに似たプロセスを我々生物も行っています。

生物では普段は新陳代謝によって常に新しい細胞が作られていますが、その際に細胞の核の中でDNAが複製され、新しい細胞へと分配されていきます。そして、子孫を残すときには精子や卵など生殖細胞といわれる特殊な細胞を作ります。つまり、一個体として成長していくうえでは細胞分裂を行っていますが、子孫を残す際は特殊な形態を作るのです。

生物と巨大ウイルスを比べると、

生物では

  1. 細胞
  2. 生殖細胞

巨大ウイルスでは

  1. ヴァイロセル
  2. ウイルス工場
  3. ウイルス粒子

それぞれの番号の器官が対応しているのです。

つまり、巨大ウイルスの本体を何に定義するかによっては、巨大ウイルスも生物のような挙動をとるように見えるのです。

(なお、巨大ウイルス全てがウイルス工場を作るわけではないので悪しからず。)

おわりに

巨大ウイルス、この特異な存在は我々に生命の在り方を示してくれているのでしょうか。その可能性は十分あるように感じます。見えているけど見えていない、巨大ウイルス発見がそうであったように、今わかっていることの中には実はまだわかっていないことがあるのかもしれません。

現時点でわかっている事象について、別の観点から見てみるとさらに明らかになることあるかもしれません。少なくともこの教訓を巨大ウイルスは我々に気づかせてくれたのかもしれません。

 

それではまた。

「巨大ウイルスと第4のドメイン」を読んで

小さいはずのウイルスなのに巨大?

皆さんこんにちは。

今回は当ブログのメインテーマである備忘録第一弾です。そして、その第一弾に選んだ本はこちら、

「巨大ウイルスと第4のドメイン武村政春著、ブルーバックス

です。

 

そのタイトルにあるように、この本は巨大ウイルスにフォーカスした本となっています。タイトルを聞いてもクエスチョンマークが頭に浮かぶ人は多いのではないでしょうか?

まず、ウイルスというのは病原体であり、おおよそ肉眼でみることができる大きさではありません。つまり、ウイルスというものを現すときに連想する単語は「小さい」になることが多いと思います。しかし、今回フォーカスされているのはウイルスはウイルスでも、"巨大"ウイルスです。では、どれくらい巨大かというと、この巨大ウイルスの直径は、0.75マイクロメートルあるのです。例えば、インフルエンザウイルスは約0.1マイクロメートルしかなく、巨大ウイルスはインフルエンザの75倍も大きいのです。また、ウイルスとは別の微生物である細菌の例として、生きて腸に届けたい乳酸菌は約1ナノメートルくらいであり、巨大ウイルスはウイルスというよりも、細菌に近い大きさなのです。

(ナノやらマイクロやら聞きなれない単位が出てきて、どれくらいの大きさかピンと来ない人も多いかと思います。調べてみると、日本人の髪の毛の太さは平均0.08ミリメートルだそうです。これをマイクロメートルに換算すると、髪の毛の太さはだいたい80マイクロメートルです。なので、巨大ウイルスは髪の毛の100分の1の大きさになりますね。)

また、巨大ウイルスが"巨大"ウイルスといわれる所以はその体の大きさだけではありません。巨大ウイルスが持っているDNAも巨大であり、それまで見つかっていた最大DNA長よりも3.3倍近く長く、最小の細菌よりも長いDNAを持っていることが分かったのです。

何はともあれ、2003年に発見されたこの巨大ウイルスは今までのウイルス界の概念を遥かに上回る、文字通り大型新人だったのです。

ちなみに初めて見つかったこの巨大ウイルスはミミウイルスと名づけられました。ファンタジーもののゲームやお話で「ミミック」といわれるモンスターをご存知でしょうか?このモンスターは普段は宝箱に擬態しており、それを開けようとした人を襲うというずる賢いモンスターです。このように、ミミックとは真似るとか似ている、のような意味であり、ミミウイルスもその巨大さから発見当初は細菌の一種であると勘違いされていたくらいです。つまり、細菌に似ていることからミミック-ウイルス、ミミウイルスと名づけられたのです。

 

巨大ウイルスは生物の定義を揺るがす

話は変わりますが、皆さんは生物の定義を知っていますか?実は完全なコンセンサスは存在しないようなのですが、その存在が何かで区切られている、自分でエネルギーを作ることができる、そして自分で増殖することができる、この3つが一般的な生物の定義です。

そして、ウイルスはこの生物の定義からは外れるのです。つまり、ウイルスは生き物ではないのです。では、ウイルスは何なの?と思いますが、定義から外れる以上、単なる化学物質の集合体ということになってしまいます。

つまり、我々生物は単なる化学物質の集合体によって病気を発症し、苦しめられている?とやるせなく感じてしまいますが、残念ながらそうなのです。しかし、それはあくまで定義上は、です。

ウイルスが満たしていない生物の定義は「自分でエネルギーを作ることができる」と「自分で増殖することができる」です。では、ウイルスはこれらの点を満たすことなく、どうやってこれまで存続し続けてきたのでしょう。

答えは、ウイルスの生存戦略にあります。(生き物ではないのに"生存"戦略といってもいいものかは甚だ疑問だが。)

ウイルスは生物に感染すると、感染した先のその生物が持っている生物である故のメカニズムを間借りします。つまり、ウイルスは生物が持っている、エネルギーを作るシステム、生物が増殖するシステムを利用してしまうのです。これによってウイルスはこれまで繁栄してこれたのです。そして、それらのシステムを自分で持っている必要がないので、ウイルスは小さくいれるのです。

 

話は巨大ウイルスに戻ります。

巨大ウイルスはサイズおよび持っているDNAが莫大であると言いましたが、ただ大きいだけではないのです。なんと、巨大ウイルスは本来ウイルスが持っていないはずの、先のシステムの構成要素の一部を持っていたのです。現状、構成要素の一部しかもっていないので、巨大ウイルス単体でエネルギーを作ったり、増殖したりはできません。しかし、それまでウイルスが持っていなかったものを持つウイルスが見つかったこと自体が想定外です。そして、巨大ウイルスは次々と新しい種類のものが見つかってきているのですが、持っているシステムの構成要素が多いものがどんどん見つかっているのです。

可能性は低いかもしれませんが、いつかは生物に必要なシステムの構成要素全てをコンプリートした巨大ウイルスが見つかる日が来るかもしれません。

そして、これらの新発見を加味して、生物の分類に巨大ウイルスを追加したほうがいいのではないかという説が出てきました。

現在の分類では、生物は真核生物、細菌、古細菌の3つに分けられています。我々人間は真核生物ですね。そして、これら3つの分類に加えて、巨大ウイルスという分類を追加しようじゃないか、というわけです。この分類に巨大ウイルスが肩を並べれば、生物の定義が見直されるという事になります。

 

おわりに

ウイルスを研究している身からすると、このような巨大ウイルスが発見されたことはとてもワクワクさせられます。それは新しいものが見つかったことに対するものだけでなく、それが今までの常識を覆しつつあるということに対してもです。そして、科学における何かの定義、今回でいうと生物の定義になりますが、定義というものは所詮人間が決めたことに過ぎません。したがって、巨大ウイルスの台頭のように、何かを機にその定義が揺らぐことは今後も大いにあると思います。

確実な定義が今後定まることはあるのでしょうか。あったとしても、それは私が生きている間に成し遂げられることはないでしょう。それを見届けることができないのは残念ですが、現時点で分かっていることをできるだけ明らかにすることが私たち研究者の使命なのでしょう。

 

ここらで止め時にしないと、これ以上ダラダラと長くなりそうだったので、今回はこれくらいで筆を置こうと思います。もちろんこの本の全てを紹介することはできていません。なので、興味を持った方は是非ともこの本を読んでみてください。

 

それではまた。

植物ウイルスは単なる悪者ではなかった?

私が行っている研究について

皆さんこんにちは。

先日の書き込みでは、このブログでは私が読んだ本について備忘録的にああだこうだとつぶやくと言ってましたが、せっかくなので自分が行っている研究について簡単に説明したいと思います。

 

先日も言いましたが、私の専攻は植物ウイルスです。

ウイルスというと、2020年3月現在、新型コロナウイルスが世界各地で猛威を奮っています。コロナウイルスは我々人間に感染するウイルスであり、いわゆる風邪ウイルスの総称です。

 

このように人間がウイルスに感染するように、実は植物もウイルスに感染します。

といっても、道端の植物がゲホゲホと咳き込んだり、くしゃみをしている光景は見たことないですよね。

植物がウイルスに感染すると主に現れる症状は見た目の変化です。

葉っぱが黄色っぽく変色していたり、葉の一部がくしゃくしゃっと変形したりする場合が多いです。(ただ、症状が見た目で分からない場合もあります。)

 

このような植物の病気は農作物の収量低下や、観賞用の植物の価値を低下させます。

そのため、植物ウイルス学者は日々、病気をどうすれば抑えられるか・予防できるかを研究しています。

 

ではブログ主もそういう研究をしているの?

と思うかもしれませんが、実はそうではありません。

私は植物ウイルスを「ツール」として使う研究をしています。

「病原体をどうやってツールとして使うの?」

「まさか某サバイバルホラーゲームのように、感染した対象(この場合は植物)をゾンビに変えてしまうような生物兵器を作ろうとしている?!」

 

もちろんそんなことはありません。

具体的には植物ウイルスを使って、植物の遺伝子がどんな役割を持っているかを調べることができるツールを開発しています。

このツールは一般的にウイルス誘導性ジーンサイレンシング(VIGS)といわれています。

 

VIGSって何?の前に

VIGSの原理を説明する前に、覚えておいてもらいたいことがあります。

それは「DNA」と「遺伝子」です。

いずれも生物の授業で一度は聞いたことのある単語だと思います。なかには、DNAも遺伝子も一緒じゃないの?と思う方もいると思います。しかし、似て非なるものです。

簡単にいうと、DNAは文字、遺伝子は単語です。つまり遺伝子はDNAという文字で書かれた意味のあるまとまりです。

例えば、「あとんぼるすえちのみふ」のような文字列があったとします。

平仮名が無作為に並べられているので、文字があるのはわかりますが、意味をなしていません。

しかし、「きょうはいいでんきだ」という文字列があったとすると、

なるほど、今日はいい天気なんだなと意味を生じます。

 

我々生物は生物として生きていくために、体の中にDNAという文字が気が遠くなるくらい刻み込まれています。しかし、DNAで書かれた文字列は、本のように最初から最後まで単語の組み合わせ、つまり意味がわかるように書かれているわけではありません。DNAの文字配列は意味の分かる遺伝子の部分と、意味をなさない単なる文字の羅列の部分がつぎはぎで構成されています。

さて、これを前提としてVIGSの概要を簡単に説明します。

VIGSって何?

例えば、植物の遺伝子を構成するDNA文字配列が書いてある紙を入れると、その遺伝子を働かなくさせることができる魔法の機械があるとします。(なぜかはおいといて)

そして、手元には植物の葉っぱの色を作る遺伝子、葉っぱを正常に形づくる遺伝子、植物を成長させる遺伝子のDNA文字配列三種類があるとします。

DNA文字配列を基に、機械を使ってそれぞれの遺伝子を働かなくさせると、葉っぱの色が作られなくなり、白い葉っぱになる。葉っぱが正常に作られなくなり、くしゃくしゃの葉っぱが作られる。植物が成長しなくなり、背の低い植物になる。など、植物の見た目が変化します。

 

ある時、それらのDNA文字配列を基に、いずれかの遺伝子を働かせなくさせて植物の見た目を変化させようとしました。

いざ、DNA文字配列が書いてある紙を取り出してみると、紙に書かれているはずだった文字配列がきれいさっぱり消えていて、どれがどの遺伝子のDNA文字配列の紙かわからなくなってしまったと仮定します。

でも安心してください。

この魔法の機械は、文字が消えてしまった紙でも、元々書かれていたDNA文字配列に対応した遺伝子を働かなくさせることができます。

 

そこで、文字が消えた紙をどれか適当に一枚選んで、機械に入れます。するとどうでしょう。植物の葉っぱは白く変化したではありませんか。

つまり今選んだ紙は葉っぱの色を作る遺伝子のDNA文字配列が書かれていた、と、わかるのです。

他の二枚の紙も同じようにすれば、どれがどの遺伝子の文字配列が書かれた紙かわかるでしょう。

 

このように、何の遺伝子のDNA文字配列かはわからないけど、何かしらDNA文字配列が書かれた紙が手元にあった場合、その紙を基にその遺伝子を働かせなくさせて、見た目がどう変わるかで、何の遺伝子のDNA文字配列が書かれた紙かを調べる方法があります。

 

VIGSもこの方法に則っています。

植物ウイルスに何の遺伝子のものかはわからないDNA文字配列が書かれた紙を持たせておきます。

その紙を持った植物ウイルスを植物に感染させます。植物側はウイルスに感染して病気にかかることは避けたいので、ウイルスを排除しようとします。

これは人間でいうところの免疫に近いものです。(厳密には違います)

この免疫によって、植物ウイルスは病原体として働かなくさせられるのですが、紙を持ったウイルスの場合、持っている紙にかかれたDNA文字配列の遺伝子まで働かなくさせてしまいます。

するとどうでしょう、遺伝子が働かなくなったせいで、植物の見た目は変化します。

 

つまり、何の遺伝子かわからないDNA文字配列の書かれた紙を持たせたウイルスを感染させ、生じた見た目の変化を観察すれば、何の遺伝子のDNA文字配列の紙であったかどうかがわかるのです。

 

これがVIGSの原理ですが、何の遺伝子のDNA文字配列の紙かどうかを調べることをどうしてウイルスを使ってやらないといけないの?と思うかもしれません。

実はウイルスなんか使わなくても調べることはできます。というよりも、むしろ使わない方法の方が主流です。

しかし、その方法がうまくいかない植物の種類も多く存在します。そこで、このVIGSという、ウイルスを使う方法が開発されました。そしてこのVIGSという方法は時間もお金もそんなにかからないと注目され、広く使われるようになりました。

そして私はとある植物で使うことができるVIGSを開発しようとしています。

 

簡単に説明します、と言ったものの、書いていたら楽しくなってきてしまい、長くなってしまいました。私の悪い癖です。

 

おわりに

「ウイルス」というと、病原体というイメージが先行します。もちろん病原体であることに変わりはありません。しかし、植物ウイルスには今回紹介したように、何かの役に立つ面もあります。これは我々人に感染するウイルスも一緒です。インフルエンザが流行する時期になると、予防接種をする人も多いのではないでしょうか。予防接種はワクチンといって、病気を起こさない程に弱体化させたウイルスをあらかじめ体に入れることで、病気になることなく免疫を獲得することです。

このように、ウイルスはきちんと研究をして、適切に扱うことで、我々の役に立つこともたくさんあります。

 

そしてそのような研究をしている私みたいな人もいるという事を知ってもらえれば研究者冥利に尽きます。

 

それではまた。

このブログの在り方について

以前から計画していたブログついに始動

皆さんこんにちは。

私はとある大学院のしがない博士課程です。

専門は植物ウイルスで、マイペースに日々研究を行っています。

 

博士課程に進学してから早くも一年が経とうとしており、日々の生活に新しいこと

を取り入れようと思い、このブログを開設しました。

 

では、なぜブログかというと

博士課程は今までの学士、修士課程と比べて文章を書くという機会が増えます。

以前は文章を書くことに関しては、なんとなく得意に感じていました。しかし、年々、色々な人の文章に触れ合う機会が増えてくると同時に自分の文章はなんて拙いのだろうと感じるようになりました。

 

 しかし、博士課程では研究成果を論文つまり文章として形にし、世間に発表しなければなりません。

 

そこで、今後博士課程として世に文章という形で何かを発信していく身として、自分の文章力を高めるためにも、こうしてブログ開設に至りました。

 

ブログ開設といっても私の日常をつらつらと綴るのはあまりにも退屈なので、

何かテーマを設けようと思いました。

それが私が読んだ本の備忘録です。

 

私は比較的本を読むことが好きです。

といっても、東野圭吾村上春樹といった、いわゆる「小説」はほとんど読みません。

なぜだか「新書」を手に取ることがほとんどです。

 

大学の図書館へ足を運ぶと、目的地は決まって新書コーナー。

新書コーナーを新刊の方からぼーっと背表紙を物色します。

本のタイトルでビビっときたら、その本を手に取り、目次にサーっと目を通します。

それでも何か興味を持ったら晴れて貸し出しとなります。

いわゆるタイトル借りの延長線上です。

 

私は植物ウイルスを専攻しているので、理系とりわけ生物系の人間です。

なのでタイトル借りの対象となる新書は生物系の内容が多くなります。

たまには何か他ジャンルの本も読まないとですね。

 

というわけで、これからは私が読んだ本について備忘録的にああだこうだと

思ったことをメインに綴っていこうと思います。

 

それではまた。